孤立が生む「万引き依存症」=ストレス要因、治療で解決を

お金があるのに店頭で盗みを繰り返す「窃盗症」。

 家庭内での孤立やストレスが要因とされ、治療が必要だが、病気であることを知らないまま何度も逮捕される人がいる。治療に取り組む精神保健福祉士斉藤章佳さん(39)は患者らの実態を記した「万引き依存症」を出版。「誰でもなり得る病気だと知ってほしい」と訴える。

 「イライラがスーッと消えた」。斉藤さんの勤務先の大森榎本クリニック(東京都大田区)を受診する患者の多くは、万引きが成功した瞬間をこう語る。同書で紹介される万引きのきっかけは、家庭不和や仕事の不調、身近な人を亡くした喪失感などさまざまだ。本来なら誰かに相談したり、趣味で気分転換したりしてストレスを解消するが、患者は「捕まるかも」というスリルに依存していく。

 同クリニックの窃盗症外来では、万引きした時の状況を振り返り、欲求を抑える方法を考えるプログラムを、他の患者と共に1年間受ける。斉藤さんは「悩みを打ち明けられる仲間をつくることで、万引きしなくてもいい状態になっていく」と話す。ただ、こうした治療を行う施設は全国に数えるほどしかないという。

 2016年11月に窃盗症外来を開設して以来、今年6月末までに20~80代の200人以上が受診し、うち7割を女性が占めた。女性は家事や育児、介護などを1人で担うことが多く、孤立によるストレスが引き金になりやすいという。根本的な解決には家族の協力が必要で、斉藤さんは「家庭内の役割も見直さなければならない」と強調する。

 警察庁によると、17年の万引き認知件数は約10万8000件、検挙人数は約6万6000人に上る。小売業界などでつくるNPO法人全国万引犯罪防止機構」は年間の被害額を約4600億円と推定。これらには貧困などが背景にある万引きも含まれるが、窃盗症の場合は治療による再犯防止が可能だ。斉藤さんは「社会的損失を減らすためにも、刑事処分だけで終わらず、治療につなげるべきだ」と提案する。